Lunes, 08 de Febrero de 2021
「クアレンテーナと私の音楽生活」       
Escrito por 大長 志野   

2020年3月15日、私は大切な録音に行く準備をしていました。世間は既に不穏な雰囲気が漂っていて、アルコールジェルがどこにも売ってない!と少し慌てた状態になっていた頃。私もそんな世間の話を耳に入れながら、録音の後にはトイレットペーパーを買って帰ろう。となぜか決めていました。

 

地下鉄に乗って録音スタジオへ行くと、いつもなら豪快にアブラッソのところを、肘で挨拶、マテ茶の時間ももちろんなし。“これからどうなるのだろう?”と薄暗く漂う空気を感じつつも、私たちの録音は楽しく終了。帰り際にトイレットペーパーを買おうと決めていた私は、店に入りトイレットペーパーの棚に直行しました。もちろんありました!が、皆が買い求めて荒らしたであろう残骸の様子が、なんとも言えない人々の心の焦りも感じた事をはっきりと覚えています。


その日から数日経ち、街と人々の生活は一変。- 強制隔離 ?! -
固く重いその響きに、一体どんな事が待ち受けているのだろう。と考えながらも、ひとまずは、「生活の流れを止めずに」という気持ちでした。

私はフリーランスのピアニストです。多くのフリーランスの演奏家がおそらくそうであるように、ライブやコンサート、ショーで演奏をして、対面でレッスンをします。「対人」でほぼ生活が成り立っていました。それが完全に遮断されたら?もちろん、お財布の出口は優秀に働き続け、入口はほぼ不要に。

数字だけ見ると、とても辛い現実です。終わりが見えないとわかると、さらに不安にもなりました。しかし、ネガティブな事だけではありません。「時間はお金には変えられない」という言葉もある通り、貴重な時間が手に入ったのです!外へ出れないおかげで、自分の制作・練習に没頭する時間がもてるではないですか。私にとってとても有意義な時間となりました。

通常の生活で、演奏やレッスンで駆け回る事ができる時間は、本当に有り難く幸せです。音を聞いてもらい、空間を共有できる喜びは、何事にも変えられません。しかし、その楽しさの反面、ふと気がつくと、走り回って1日が終わっている。という事がよくあることに疑問も感じていました。自分の音や表現を見つけるために、一人の時間を持つ事は、実は私には必要で、欲していた時間でもあったのです。(と言いつつも、このような事を言っていられる私は、なんて恵まれているのだろうともわかっています。養うべき家族があったり、食べることができなければ、こんな事を言っていられませんから。)

さて、クアレンテーナの1回目の延長が決定した時、終わりを待っていても無駄だな、と判断し、ピアノオンラインレッスンを開始しました。もちろん、お互いにオンラインということで負担・ストレスにもなりますから、レッスンの形態をお伝えし、希望の方にのみという事で再開しました。やはり通信に時差もありますし、直接手を見たり、実際に鳴っている音を聞くこともできないので、特に小さな子供達には集中力を保つという意味でも、色々な工夫が必要ではありました。改善策を考え、できるだけの事を毎回行なっています。

また、「誰かの為に、ただそこにある」をモットーに、癒し効果をもたらすと言われている、432ヘルツでの音楽配信をYouTubeで始めました。日本の曲から始めた企画ですが、最近はタンゴを中心に発信しています。自宅録音を以前からやっていればよかったのですが、私は一からでしたので、環境を整え、パソコンのソフトを購入し、操作を覚え、失敗を重ね、うまくいった時は、一人で感動のガッツポーズ。今ではだいぶ慣れました。この作業は、強制隔離がなければ、開始していなかったか、もしくはまだまだ先にやっていたことでしょう。

そうこうしているうちに、音楽仲間たちはリモートでの録音、映像作成をはじめ、私も参加しているグループや、仲間と声をかけ合って、録音・映像作成も取り掛かりました。そこで活躍したのが、環境を整えたばかりの自宅録音システム。ピアノの音を直接パソコンに取り込めるようにしていたために、映像作成の際の音源制作、また、録音の仕事がスムーズに行えました。

新型コロナで亡くなれた方やそのご家族、多大なストレスと緊張感の中働き続ける医療関係者の方々、また経済的な面での困難を抱えている方の事を思うと、収入は途絶えても、音楽を続けられる自分は幸せ者だと感じています。世界的に不安が続く毎日ですが、一人一人が責任を持って行動し続けていきたいものです。キレイ事ばかりは言っていられないですが、人類にとって、そして、家族にとって、個々にとって、「本当に本当に大切なものは一体何か」を改めて考えさせられる時間をもたらした、「新型」ウイルスだったのかもなぁ。と感じる日々でもあります。生の音の波動・振動を、安心して共有できる日々が、一刻も早く戻ってきますように!!


* ピアニスト