Martes, 10 de Diciembre de 2013
魚拓―魚の魂を捕らえる 

日本にはもともと『美術/アート』ということばもなかった。『美術/アート』ということばは1973年のウィーン博覧会に日本の明治政府が始めて参加することを切欠に、英語のFine Artsを訳したものである。日本では生活になじんだ用品や習慣が、あるとき海外の目には斬新に映り、美術品として評価され始めたいう例は、今に至る日本の多くの伝統工芸品にも言えることである。
そんなことをなぜ語るかと言うと、先月ブエノスアイレス市サンテルモ地区のパッサッヘ865画廊で大変興味深い“アート”に出会ったからである。

•    魚拓アート
『魚拓』とは本来、釣った魚を記録しておくために古くから日本に伝わる魚の版画である。しかし、その技法の巧妙さと、映し出された魚の写実性、そしてその美しさは単なる“資料”の領域を超えて芸術的な関心を喚起させるものである。スペイン、カタルーニャ地方のカペヤーデスにあるペーパーミュージアム(紙の美術館)の館長であり自身がアーティストであるヴィクトリア・ラバルさんも魚拓の面白さの虜になった一人。先月パッサッヘ865画廊で開かれた個展のために来亜。彼女の魚拓アートを紹介してくれた。
魚拓とは、その名の通り魚を紙に摺って印刷する技術だ。2種類ほうほうがあり、一つは魚に直接色を塗り、魚拓にする直接法。もう一つは、魚の上に紙を乗せ湿らせたうちに体面の凹凸を写し取り、紙が渇いたところで着色していく間接方である。魚拓は庄内藩が発祥の地とされ、現在残っている最古の魚拓は1837年のもので第9代庄内藩主が江戸で釣った鮒を魚拓にしたものだといわれている。
ヴィクトリア・ラバルさんがここ数年取り組んでいるプロジェクト(企画)は、『魚拓:魚の魂を捕らえる』と題したもの。魚の分布図を魚拓で作るという目的がある。世界に3万2千種もいるといわれる魚種、カタルーニャ地方だけでも400種はいるそうだ。まだ先は長い。
2010年から2011年の約1年の間、早朝4時半にバルセロナの中央魚市場に出向き、そこで卸売業者に売却された魚を魚拓にして彼らに贈呈するという活動を行った。毎日400トンもの魚介類が行き交う巨大魚市場の真ん中で、選ばれた魚が台の上で一匹一匹紙の上にその姿を浮きあがらせる。まず体面に墨汁を塗り、その上に丁寧に和紙をかけ、絶妙な手つきによって体の形、うろこの模様や流れ、顔の表情が紙に写し取られる。魚によって皮膚の質感が全く違う。ツルツル滑りやすいものは紙に写すのが大変困難だし、鱗一つ一つを丁寧に紙に写し取るのも容易ではない。
ヴィクトリア・ラバルさんの展覧会では、通常横向きに置かれる魚拓が、縦向きに展示されていた。カレイやうなぎ、蛸、カジキマグロ、エイ、ひらめ等々。あらゆる魚が一匹一匹表情を持っていた。まるで魚のポートレート(肖像画)を見ているような感覚だ。紙に映し出されるときにはもう命をなくしている魚たちの死後のポートレート。死んだ魚の目は冷たく悲しいと人は言う。でもこの展覧会で出会った、互いに肩を並べた魚たちはなぜか心和やかに生き生きとした表情を見せていた。墨の黒も温かかった。沢山の魚の姿に囲まれて、不思議にも親近感を感じ、心地よいノスタルジー(郷愁)に浸った展覧会であった。(郷)